皆様は「HACCP」って言葉、聞いたことありますか?「見たことあるけど、まず読み方が分からない(汗)」という方もあるかもしれませんね。
このHACCPというのは、食品の安全管理に関する用語で、近年の食品業界では非常に注目されています。そして私たちがメインテーマとしている異物混入対策とも、深い関係があるんです。
そんなわけで、今回はHACCPについて詳しく解説していきたいと思います!
HACCPとは何ぞや?
HACCP(ハサップ)は、1971年にアメリカで発表された、食品の衛生管理の手法です。
もとは人類初の月面探査計画である「アポロ計画」においてNASAが考案したもので、「病院のない宇宙では、絶対に安全な宇宙食が必要だ!」という考えからHACCPが生まれました。
その後、様々な改善が行われ、現在では宇宙食に限らずあらゆる食品を対象に、最も優れた安全管理手法として世界各国で導入されています。
HACCPという言葉は「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字をとった略称ですが、意味的には「HA」と「CCP」に分かれます。
HA(危害要因分析)
HA(Hazard Analysis)は「危害要因分析」という意味です。
食品の原材料の入荷から製品の出荷までに発生するおそれのある「危害要因」を、すべての工程について分析して洗い出すことです。
危害要因とは、飲食に起因する健康被害をもたらす可能性があるもので、大きく次の3つに分類されます。
- 生物的危害要因:病原微生物、ウイルス、寄生虫など
- 化学的危害要因:魚や植物の毒、洗剤、殺虫剤、残留農薬、アレルギー物質など
- 物理的危害要因:金属片、ガラス片、硬質プラスチック、石など
CCP(重要管理点)
CCP(Critical Control Point)とは「重要管理点」という意味です。
上記のHAによって明らかになった危害要因を減らしたり除去したりするのに、特に重要な工程を指します。
重要管理点においては、科学的・論理的な根拠をもとに管理基準を決め、連続的な監視と記録を行います。
例えば、食肉の「病原菌の増殖」を危害要因とする場合、これを防ぐためには適切な温度で冷却するのが重要です。したがってCCPは「冷却工程」、管理基準は「作業終了後24時間以内に肉の表面温度を10℃以下にする」といったものになります。
- 対策するべき危害要因を分析する
- その要因が発生しやすい重要管理点を設定する
- 具体的な管理基準や衛生計画を立てる
- 管理を継続して行い、その内容を記録する
これが、HACCP運用の大まかな流れです。
HACCPは従来の衛生管理と何が違うのか
HACCPという手法が広まる前にも、もちろん食品の衛生管理は行われていました。
その方法は、手洗いや消毒といった一般的な衛生管理と、いわゆる「抜き取り検査」が主流でした。
抜き取り検査とは、製造過程を経て出荷の段階にある製品の中から、ランダムに抜き取ってその安全性を検査する手法です。
一部を調査して全体をはかるという統計学的な考え方によるものですが、この方法では、検査していない製品の安全性を完全には保証できません。
また異常のある製品が見つかった場合も、その原因がどの工程にあったのかを見つけるのが難しく、対策をとりづらいという問題もあります。
これに対してHACCPは、製造工程を管理するという点が違います。
危害が発生しやすい重要な工程(CCP)では一つ一つの製品を連続して監視・記録するので、すべての製品が管理対象となり、汚染や異物混入を効率的に検査できます。
また汚染などが発見された時にどの工程に問題があったかを特定しやすいため再発を防げるのもメリットです。
HACCPが日本で注目される理由
HACCPがアメリカ発祥であるのは最初に申した通りですが、ここ数年、特に日本国内においてHACCPは業界の注目を集めるようになりました。
それは、2018年に食品衛生法が改正され、原則としてすべての食品事業者に対して「HACCPに沿った衛生管理」の義務化が定められたからです。その後、猶予期間を経て2021年6月に完全施行となりました。
すべての事業者ですから、食品を製造・加工している食品工場はもちろん、食品を販売しているスーパー・小売店、調理して提供しているレストランや食堂、ホテルなども対象となります。HACCPが「我がごと」となった、経営者や衛生管理担当者からの注目度が一気に高まったわけです。
HACCPが義務化された背景には、外国人観光客の増加や東京オリンピック開催、国策として食品の海外輸出の推進などの理由から、「国際基準と整合した食品衛生管理」が求められるようになったという点があります。
実際、アメリカやECなど世界各国でHACCP対応が義務化・推奨されており、日本もそれにならうというのは自然の流れといえるでしょう。2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、日本の「食」は海外でも注目されていますからね。
HACCP対応は何をすれば良いの?
さて、HACCPに沿った衛生管理が義務化されたというのは分かりましたが、では実際に何をすれば良いのでしょうか?
まず前提として知っていただきたいのが、このHACCP対応の取り組みには2種類あるということです。
①HACCPに基づく衛生管理
対象:大規模事業者、と畜場、食鳥処理場
②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
対象:小規模な営業者等
すべての食品事業者は、規模や取扱製品に応じて、①②のどちらかを実施する義務があります。もちろん①のほうが、より高度な衛生管理が必要です。
②に該当する「小規模な営業者等」については、おおむね次のように決められています。逆に言えば、これに該当しない事業者は大規模事業者ということです。
- 工場に隣接する店舗で製品を小売販売する営業者
- 飲食店・喫茶店
- 食品を調理する営業者
- 包装された食品のみを貯蔵・運搬・販売する営業者
- 食品を小分けして包装し、小売販売する営業者
- 食品等を取り扱う従業員が50人未満の事業場
次に、①②それぞれについてもう少し詳しくご説明していきます。
①HACCPに基づく衛生管理
「HACCPに基づく衛生管理」は、コーデックス委員会(国際食品規格委員会)が策定した「HACCP 7原則12手順」に基づいて、事業者自らが計画を作成し、管理を行う衛生管理です。
「7原則12手順」は、HACCPの具体的な導入手順を、前準備にあたる5つの手順と、前述の「HA」「CCP」にあたる7つの手順(原則)で示したものです。個々の手順に関する詳細は割愛しますが、ここでは(一社)日本HACCP支援協会のウェブサイトにある表を転載させていただきます。
手順1 | HACCPのチーム編成 | 製品を作るために必要な情報を集められるよう、各部門から担当者を集めます。HACCPに関する専門的な知識を持った人がいない場合は、外部の専門家を招いたり、専門書を参考にしてもよいでしょう。 |
---|---|---|
手順2 | 製品説明書の作成 | 製品の安全について特徴を示すものです。原材料や特性等をまとめておくと、危害要因分析の基礎資料となります。レシピや仕様書等、内容が十分あれば様式は問いません。 |
手順3 | 意図する用途及び対象となる消費者の確認 | 用途は製品の使用方法(加熱の有無等)を、対象は製品を提供する消費者を確認します(製品説明書の中に盛り込んでおくとわかりやすい)。 |
手順4 | 製造工程一覧図の作成 | 受入から製品の出荷もしくは食事提供までの流れを工程ごとに書き出します。 |
手順5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 製造工程図ができたら、現場での人の動き、モノの動きを確認して必要に応じて工程図を修正しましょう。 |
手順【原則1】 | 危害要因分析の実施(ハザード) | 工程ごとに原材料由来や工程中に発生しうる危害要因を列挙し、管理手段を挙げていきます。 |
手順7【原則2】 | 重要管理点(CCP)の決定 | 危害要因を除去・低減すべき特に重要な工程を決定します(加熱殺菌、金属探知等)。 |
手順8【原則3】 | 管理基準(CL)の設定 | 危害要因分析で特定したCCPを適切に管理するための基準を設定します。(温度、時間、速度等々) |
手順9【原則4】 | モニタリング方法の設定 | CCPが正しく管理されているかを適切な頻度で確認し、記録します。 |
手順10【原則5】 | 改善措置の設定 | モニタリングの結果、CLが逸脱していた時に講ずべき措置を設定します。 |
手順11【原則6】 | 検証方法の設定 | HACCPプランに従って管理が行われているか、修正が必要かどうか検討します。 |
手順12【原則7】 | 記録と保存方法の設定 | 記録はHACCPを実施した証拠であると同時に、問題が生じた際には工程ごとに管理状況を遡り、原因追及の助けとなります。 |
※出典:HACCPとは | 一般社団法人日本HACCP支援協会
②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
上にあげた「HACCP 7原則12手順」をそのまま一つ一つ実施しようとすると、相応の労力と時間、コストがかかります。これだけの取り組みを、小規模の会社や店舗が対応するのは正直シンドイですし、またその負担に見合う実効性があるかというと「?」となるケースも多いでしょう。
こうした小規模な事業者等のHACCP対応については、もう少し緩やかな措置がとられています。
各業界団体が作成した「手引書」を参考にして、次の手順を実施できれば、その事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理ができている」とみなされるのです。
- 手引書の解説を読み、自分の業種・業態では何が危害要因となるかを理解する
- 手引書のひな形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備する
- 3.の衛生管理計画・手順書の内容を従業員に周知する
- 手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録する
- 手引書で推奨された期間、記録を保存する
- 記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書の内容を見直す
これもなかなか大変そうですが、先ほどの「7原則12手順」と比べれば達成しやすそうですよね!
なお、取り扱う食品によって衛生管理のポイントが違ってくるので、手引書の内容は業種によって違います。厚生労働省のホームページに各業種の手引書が公開されていますのでご参照ください。
食品等事業者団体が作成した業種別手引書(厚生労働省ホームページ)
HACCP対応の義務がない業種
ちなみに、食品を取り扱う事業者の中でも、食品衛生上のリスクが少ない業種ではHACCP対応の義務はありません。
具体的には次の通りです。
- 食品や添加物を輸入する事業者
- 食品や添加物を貯蔵・運搬する事業者
- 常温での長期保存が可能で、食品衛生上のリスクが小さい包装食品を販売する事業者
- 合成樹脂以外の器具容器包装を製造する事業者
- 器具容器包装を輸入・販売する事業者
- 1回の提供食数が20食を下回る給食施設
HACCP導入のメリットは?
ここまで読んでいただいて、「やっぱりHACCP対応ってめんどくさそう。でも義務化されたんだし、やるしかないか…」なんてネガティブな気持ちになっていませんか?
でも大変なことばかりじゃありません。HACCP対応によって食品の安全管理体制が確立されれば、事業者の皆さんにとっても良いことが色々あるんです。
より高いレベルで製品の安心・安全を確保できるというのはもちろんですが、それ以外にも次のようなメリットがあります。
従業員の衛生管理に対する意識の向上
HACCPへの対応の一つに、HACCPの考え方を取り入れた「衛生管理計画書」を事業所内で作成するという手順があります。
この計画書は、取り扱い全般で必要となる「一般衛生管理項目」と、特に重要な工程における「重要管理項目」を、事業所の実態に見合うように決めるものです。計画書の作成作業を通して、各部署の管理担当者がそれまでの衛生管理を見直し、食品衛生に対する意識を高めることになります。
また、各製造工程につく現場の従業員も、計画を果たすために必要な衛生管理の記録や改善を日々継続的に実施します。こうした取り組みを通して、従業員一人一人が責任を持って衛生管理に向き合うようになります。
生産効率の向上
HACCP対応にあたっては、危害要因分析(HA)のために、食品製造における各工程の流れを分かりやすく図式化した「フローダイアグラム(作業工程図)」を作成します。
このフローダイアグラムは、危害要因分析の情報とするだけでなく、製造工程の最適化にも活用が可能です。そのためHACCPへの取り組みを通じて各工程の作業効率を高め、生産性の向上も期待できます。
不具合や事故への対応力の向上
HACCPでは従来の抜き打ち検査と異なり、製造工程ごとに衛生管理を行います。そして管理基準が達成されなかった場合の対応(改善措置)を設定する必要があります。
このため製品に不具合やトラブルが発生した場合も迅速に対応でき、また原因の予測や対処がしやすいため不具合が連鎖的に発生する事態を防ぎます。原因が特定できれば対策のためのルール作りもスムーズです。
また衛生管理の実施状況を定期的に記録するため、そこに何らかの変化がみられれば事前に対策を行えます。こうした点から結果的に事故・トラブル発生の低減が可能です。
HACCPに従わなかった場合の罰則はある?
先ほど申し上げたように、HACCP対応は2021年6月に完全義務化されました。でも実際に対応するとなると、制度作りや社員教育など色々と大変です。もし、この義務に従わなかったら企業はどうなるのでしょうか?
結論から申しますと、2023年5月現在、HACCP対応を行わないこと自体への直接的な罰則は定められていません。
しかし、HACCPをはじめとする衛生管理体制が不十分なために「食品衛生法」に違反した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人においては1億円以下の罰金)が科される可能性があります。
食品衛生法への違反というのは、例えば「人の健康を害する食品や添加物を使用した」「承認されていない添加物を使用した」「厚生労働省等が禁止した食品を販売した」「厚生労働省等の命令(製品の廃棄や営業禁止など)に従わない」などがあります。
またHACCP義務化や食品衛生法の改正をうけて、各都道府県が食品の衛生管理に関する独自の条例を策定している場合があります。その条例に違反すれば2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性がありますので、関係者は食品衛生法だけでなく各都道府県のルールも確認しておいてください。
何よりも、HACCPに沿った衛生管理を行わなければ、たとえ罰則が科されなかったとしても対外的な企業イメージは非常に悪くなります。特に食品業界は衛生面において非常にシビアな姿勢が求められますので、取引先やユーザーの信頼を守るためにも、がんばってHACCP導入に取り組みましょう!
HACCP対応に欠かせない「異物混入対策」
ここまでのご説明で、HACCPとはどういうものなのか、大まかにはご理解いただけたかと思います。最後に、私たちが日々取り組んでいる「異物混入対策」とHACCPとの関係について触れておきます。
HACCPでどれだけ製造工程をきちんと衛生管理していても、その工場や従業員自体が不衛生だったら意味がありませんよね。
HACCPを導入するにあたっては、その前提条件として、導入する施設の基本的な衛生管理体制を、全般的に整備する必要があります。その整備の指針となるのが「一般的衛生管理プログラム」です。
一般的衛生管理プログラムは、食品を取り扱う工場や事業所、そこで働く従業員の衛生管理や、食品取扱者の教育・訓練、各工程の記録の必要性などを明記したものです。
具体的には次の項目で構成されています。
- 施設の保守点検及び衛生管理(施設内外の点検や清掃など)
- 設備及び機械器具の保守点検及び衛生管理(機械・器具類の点検や衛生管理)
- 食品等の衛生的取り扱い(原材料から検収・製造・保管までの衛生管理)
- 従業員の衛生管理(従業員の衛生管理や健康管理)
- 従事者の衛生教育(衛生管理システムに関する従業員の教育や訓練)
- そ族・昆虫の防除(防虫設備の点検や駆除など)
- 使用水の衛生管理(水質調査、受水槽等の点検・清掃など)
- 排水及び廃棄物の衛生管理(排水の詰まり・流れの確認など)
- 製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検
- 製品の回収方法(不良品を迅速に回収する手順の設定)
衛生帽子の正しい着用や防虫フィルター設置などの異物混入対策は、上記プログラムの「施設の保守点検及び衛生管理」「従業員の衛生管理」「そ族・昆虫の防除」などに該当します。
つまり一連の異物混入対策は、HACCPそのものというよりは、「HACCP導入の前提条件として、当然に取り組んでおかねばならないもの」ということなのです。その重要性をお分かりいただけたでしょうか!
まとめ
今回は、HACCPという制度について詳しく掘り下げながら、異物混入対策との関係についてご説明しました。HACCPと聞くとどこか難しそうで、漠然とした知識しか持っていないという方も多いと思いますが、本稿が少しでも皆様のご参考になれば幸いです。
そして最後にも触れたように、HACCP対応の第一歩は、職場環境の基本的な衛生管理から。そのために、私たちサンロードの製品にもぜひご興味を持っていただけるとウレシイです!